SNSやネット検索でIT業界への転職について調べていると、必ずといっていいほど目に入る言葉があります。
「SESだけはやめておけ」
「SESは業界の闇」
「行ったら人生が終わる」
なかなか強い言葉が並びますよね。これから未経験でエンジニアを目指す方や、異業種からIT業界に飛び込もうとしている方にとっては、正直ちょっと怖くなるレベルだと思います。僕自身、転職活動をしていた頃にこの手の投稿を読んでは、布団の中で「本当に大丈夫かな…」と天井を見つめていたタイプでした。
ただ、その少し先まで調べてみると、今度はこんな声も見つかります。
「未経験からSESに入って2年実務を積んだおかげで、念願の自社開発企業に転職できた」
「SESでいろんな現場を経験したからこそ、フリーランスとして独立して年収が上がった」
同じSESという単語なのに、まったく逆の感想です。一体どちらが本当なのでしょうか。
実は、この両方とも間違いではありません。SESは会社や案件、そしてその人がどんなキャリアを目指しているかによって、評価が大きく変わる働き方だからです。
結論からお話しします。「誰にでもSESをおすすめできるわけではない」けれど、「誰にとってもSESが悪というわけでもない」というのが、現場をひと通り歩いてきた身としての本音です。
この記事では、「SESはやめとけ」と言われる理由を整理したうえで、未経験者・経験者それぞれにとって本当にSESを選ぶべきなのか、現役エンジニアの視点から率直に解説します。
筆者について少しだけ
プログラミングスクールを出たあと、すぐには仕事が決まらず、貯金を切り崩しながら独学を続け、なんとかSES企業に拾ってもらい、その後Web系のフリーランスとして独立した経歴です。今は家族も増え、以前より収入の安定という言葉の重みを実感するようになりました。そんな人間が書いた記事だと思って読んでいただければ幸いです。
目次
SESはやめとけと言われる理由
まず、なぜここまで「SESはやめとけ」と強く言われるのか。一般的によく挙げられる理由と、実際に現場で感じる事情を整理していきましょう。火のないところに煙は立ちません。批判されるには、それなりの根拠があります。
ただし、ここで紹介する内容は、すべてのSES企業に当てはまるわけではありません。実際には会社ごとの差も大きいため、「こうしたリスクがある」という前提で読み進めていただければと思います。
①案件ガチャ
SES(システムエンジニアリングサービス)でエンジニアが最も恐れているのが、いわゆる「案件ガチャ」です。
SESは自社でプロダクトを作るのではなく、クライアント企業に技術者として常駐し、そこでの開発や運用を支援するビジネスモデルです。だからこそ、どの企業のどんなプロジェクトに配属されるかによって、働く環境も身につくスキルも人間関係も大きく変わります。
運よく最新の技術スタック(TypeScript、React、Go言語、AWSなど)を使うモダンな現場に参画できれば、毎日のように成長を実感できるでしょう。反対に、運が悪いと次のような現場に配属されることもあります。
- 10年以上前のレガシーなシステムをそのまま運用・保守する現場
- 開発は一切なく、WordやExcelで仕様書を延々と修正するだけの現場
- PCのセットアップやパスワード発行、問い合わせ対応が中心のヘルプデスク業務
案件を自由に選べない会社では、配属先が営業担当の力量やタイミングに左右されるケースもあります。「プログラミングがしたくて転職したのに、毎日テストケースをExcelに打ち込んでいるだけ…」という状態になれば、不満が出るのも無理はありません。これが、「SESはやめとけ」と言われる一番大きな理由だと感じています。
②待機リスク
SES企業では、次の参画先が決まっていない期間のことを「待機」と呼びます。
プロジェクトが契約満了で終わったあと、営業が次の案件を取ってこられなければ、エンジニアは一時的に待機状態になります。まともな企業なら、待機中でも基本給は100%保証され、社内勉強や資格取得の時間として活用できます。
ただ、業績が厳しい企業や悪質なSES企業では話が変わります。待機中の給料が削られたり、居心地を悪くさせて自発的な退職へ誘導したりするケースも実際にあります。
案件がない期間が数ヶ月続くと、「自分のエンジニアとしての市場価値が下がっていくのでは」と精神的なプレッシャーを感じる人もいます。数字には表れませんが、じわじわと効いてくる負担です。
③評価されにくい会社もある
常駐先でどれだけ成果を上げても、クライアントから高く評価されても、それが自社での評価や給与に直結しにくい仕組みになっている会社もあります。
自社勤務であれば、上司やチームメンバーが日々の仕事ぶりを見ています。しかしSESの場合、あなたの働きを最も近くで見ているのは常駐先の社員です。一方で、人事評価や給与を決めるのは自社の営業や上司になります。
現場でどれだけ難しい課題を解決したか、品質の高いコードを書いたかは、自社には伝わりにくいこともあります。その結果、常駐先からの評価よりも、単価や稼働状況といった数字が重視される会社もあります。
④帰属意識が持ちづらい
SESエンジニアは、年単位あるいは数ヶ月単位で常駐先が変わることもあります。別の会社へ出社し、その会社の社員や他社のエンジニアと一緒に仕事を進める働き方です。
そのため、「自分は一体どこの会社の社員なんだろう」と感じる人もいます。
自社の社員と顔を合わせるのは、月1回の全体会議や面談くらいという会社もあります。職場の人間関係も現場が変わるたびにリセットされるため、長く付き合える同僚やメンターを作りにくいと感じる人も少なくありません。
⑤給与が上がりにくい会社もある
SESの収益構造は、クライアントから受け取る単価から、エンジニアの給与や社内経費を差し引いた分が会社の利益になる仕組みです。
そのため、商流(下請け構造)が深い会社では、途中の仲介会社にマージンが入ることで、自社へ入ってくる単価が低くなります。
単価の上限が低ければ、給与を大きく引き上げることも難しくなります。何年働いても昇給がほとんどなく、給与水準が伸び悩む会社があるのは事実です。
もちろん、近年は単価を社員へ積極的に還元するSES企業や、高還元・案件選択制を採用する会社も増えてきました。だからこそ、「SESだから給与が低い」と決めつけるのではなく、会社ごとの仕組みまで確認することが大切です。
それでもSESが未経験者の入口になっている理由
ここまで読むと、「やっぱりSESなんて絶対に避けるべきでは」と思われるかもしれません。
ただ、実際の転職市場を見渡すと、未経験からITエンジニアになった人の多くが、最初のキャリアとしてSES企業を選んでいます。
なぜでしょうか。
理由はシンプルです。IT業界では「実務経験」が非常に重視されるためです。
IT業界の採用構造を整理すると、こんな流れになっています。
自社サービスを展開する企業や社内SEの求人は、募集が始まると経験者からの応募が一気に集まります。企業側からすれば、時間とコストをかけて未経験者を育成するより、他社で1〜2年でも実務経験を積んだエンジニアを採用したいと考えるのは自然なことです。
対してSES企業は、「未経験者を育成し、現場で経験を積んでもらう」こともビジネスモデルの一部になっています。そのため、実務経験がなくても、ポテンシャルを評価して採用する企業が比較的多くあります。
もちろん、最初から自社開発企業や社内SEへ転職できる人もいます。ただ、それには高い学習量や完成度の高いポートフォリオが求められるケースも多く、誰でも再現できるルートとは言えません。
その点、まずはSESで実務経験を積み、その経験を武器に自社開発や社内SEへステップアップする人は少なくありません。
求職者側から見れば、SESは「未経験者が実務経験を積み、市場価値を高めるための入口」と考えることもできます。
未経験から自社開発は本当に難しい?
「自分は努力して自社開発企業に直接入るんだ」と意気込む方も多くいます。プログラミングスクールの広告でも、「未経験から人気自社開発企業へ内定!」という実績が紹介されているのを見かけます。
では、未経験からいきなり自社開発企業や社内SEへ転職するのは、実際どれくらい難しいのでしょうか。
答えは、「絶対に不可能ではないけれど、再現性は決して高くないし、かなり狭き門」というのが現実です。
もちろん、独学で高いレベルまでスキルを磨き、質の高いポートフォリオを用意して内定を勝ち取る人もいます。ただ、それは相応の努力を積み重ねた結果であり、誰でも同じように実現できるルートとは言えません。
人気のWeb系自社開発企業では、未経験者向けの募集に応募が集中することもあります。その中で内定を勝ち取るには、これくらいの水準を求められるケースが多いでしょう。
- 独学やスクールで1年以上、毎日数時間の学習を継続できる自走力
- 既存教材をなぞっただけではない、独自性のあるWebアプリケーション制作(GitHubで公開)
- インフラ構築(AWSやDockerなど)やテストコード、CI/CDまで意識した質の高いコード
- 前職での実績や、エンジニアとしてのポテンシャルを感じさせるコミュニケーション力・プレゼン力
独学を1年以上続けて質の高いポートフォリオを作り込める熱量とスキルがある人、あるいは新卒で地頭が非常に良い人なら、十分チャンスはあります。ただ、働きながらそこまで到達するのは、想像以上に大変です。
プログラミングスクールを卒業したものの、何十社受けても書類で落ち続け、生活費や貯金が底をついてしまう。そんな求職者も実際に見てきました。
だからこそ、「何年も独学や転職活動だけで消耗するくらいなら、まずはSESで実務の打席に立つ」という選択は、決して逃げではないと思っています。
もちろん、そのままSESに居続けることが目的ではありません。実務経験を積み、市場価値を高め、自社開発や社内SE、フリーランスなど次のキャリアへ進むための一歩として考えることが大切です。
SESは実務経験を積む場所としてはアリ
IT業界における最大の価値。それは間違いなく「実務経験」です。
どれだけ独学を2年続けた人よりも、たとえ単純な不具合修正や小さな機能改修であっても、「現場で1年コードを書き、Gitでチーム開発を行い、レビューを受けた」経験を持つ人のほうが、転職市場では高く評価されます。
採用担当者が知りたいのは、「実際の開発現場で仕事ができるか」です。その判断材料として最も分かりやすいのが実務経験だからです。少し理不尽に感じるかもしれませんが、これが業界のリアルです。
IT業界の市場価値は、経験年数によって驚くほど変わります。
- 実務経験0年(未経験):書類選考の通過率が低く、ポートフォリオや学習実績が重視される
- 実務経験1年:開発現場の流れを理解していると評価され、応募できる求人が増えてくる
- 実務経験3年:一人立ちできるエンジニアとして扱われ、自社開発や社内SE、高単価案件など選択肢が大きく広がる
つまり、SES企業で1〜2年でも実務経験を積めれば、「未経験」という最大のハードルを越えられる可能性が高まります。
もちろん、これはSESだから価値があるという話ではありません。受託開発でも自社開発でも、現場で積んだ実務経験には同じように価値があります。未経験からその実務経験を得やすい入口のひとつがSESだということです。
ちょっと一言
入社直後は、思うような開発案件に携われず、「これがエンジニアの仕事なのか…?」と首をかしげる時期もあると思います。それでも、この期間を実務経験を積むための時間と割り切れる人は、その後の転職で一気に選択肢が広がることがあります。逆に、「SESだから」という理由だけで早々に辞めてしまうと、実務経験を積む前にキャリアが止まってしまうこともあります。だからこそ、まずは経験を積み、その先で理想の環境へステップアップするという考え方を、私はおすすめしています。
ただし長く居続けるのはおすすめしないケースもある
「SESは実務経験を積む場所としてアリ」とお伝えしましたが、これには条件があります。それは、「目的意識を持たずに長居しすぎないこと」です。
もちろん、SESで長く働くこと自体が悪いわけではありません。スキルが順調に伸び、案件選択の自由度も高く、単価還元にも納得できる優良SESであれば、そのままキャリアを築くのも十分選択肢です。
ただ、希望する技術に触れられない状態が続いたり、スキルアップにつながらない業務ばかりを任されていたりするなら話は別です。そうした環境で何年も過ごしてしまうのは、キャリアの観点からするとリスクが大きくなります。
現在の経験年数とおすすめの立ち回りを、表にまとめました。
| あなたの状況・経験年数 | おすすめの立ち回りとキャリア戦略 |
|---|---|
| 未経験(これからIT業界へ) | SESを選択肢として積極的に活用。まずは実務経験の「1年目」を獲得することを最優先にする |
| SESで経験1〜2年 | 業務に慣れてきた時期。今の現場でどんな技術が身につくかを冷静に評価し、伸び悩むなら他社への転職活動を始める |
| SESで経験3年以上 | 一人立ちできる市場価値がつく。自社開発、社内SE、受託開発、または高還元SESやフリーランス化を本格検討 |
エンジニア歴3年以上あるにもかかわらず、希望する開発ができない現場に放置されていたり、スキルアップが見込めない業務ばかりを任されていたりするなら、環境を変える準備を始めるタイミングかもしれません。
大切なのは、「SESだから辞める」のではなく、「今の環境で市場価値を高め続けられるか」という視点で判断することです。
経験者ならSES以外も十分狙える
SESで2〜3年ほど実務経験を積むことができれば、未経験の頃には応募すら難しかった求人にも手が届くようになります。キャリアの選択肢は、一気に広がっていきます。
実務経験者が目指せる代表的な選択肢には、こんなものがあります。
自社開発企業
自社でサービスやWebアプリを企画・開発している企業です。サービスを長期的に育てていく面白さがあり、最新の技術スタックを積極採用している会社も多くあります。エンジニアからの人気が高い環境です。
社内SE(情シス)
一般企業のIT部門で、社内システムの構築や運用、ヘルプデスク、ITインフラの整備などを担当します。自社社員のために働くため、自社開発に近い環境でありながら、比較的ワークライフバランスを取りやすい企業もあります。
受託開発企業(Web制作・システム開発)
クライアントからシステムやアプリの開発を直接請け負い、自社内で開発(持ち帰り開発)を行います。要件定義から設計、実装、運用まで一貫して関われるため、総合的な開発力を身につけやすい環境です。
フリーランスエンジニア
特定の会社に所属せず、個人事業主として案件ごとに契約を結ぶ働き方です。実務経験が3年以上あれば、エージェントを通じて高単価案件を狙える可能性も高まります。実際、僕自身も一定の実績を積んだあとにフリーランスへ転身し、働き方と収入の両面で大きな変化を経験しました。
どの道を選ぶとしても、実務経験は共通して評価される大きな武器になります。だからこそ、未経験のうちは「どこに入るか」だけではなく、「その経験を次のキャリアにつなげられるか」という視点を持つことが大切です。
SES企業を選ぶならここだけは確認
「未経験からSESに入るのもアリなのは分かったけれど、ブラック企業には絶対に入りたくない」。当然の感情だと思います。
SES企業とひとことで言っても、エンジニアを使い捨てにする劣悪な会社から、キャリアを真剣に考えて案件をアサインしてくれるホワイトな優良企業まで、正直かなり玉石混交です。
もしSES企業を検討するなら、最低限これだけは確認してください。
- 単価還元率が明示されているか(60〜70%以上がひとつの目安)
- 案件選択制(自分で参画する案件を選べる仕組み)を導入しているか
- 待機期間中の給与が100%保証されているか
- 教育・研修制度や、定期的なキャリア面談の機会が整っているか
- 商流(直接取引・元請け案件の割合)が浅いか
求人票だけを見て判断するのではなく、IT業界に特化した転職エージェント(ユニゾンキャリアやレバテックキャリアなど)を活用し、企業の内情や実際のアサイン実績を第三者目線で確認してもらう。これが、ブラックSESを回避する一番確実な方法だと感じています。
結局SESはやめるべき?
結論から言えば、「全員がSESを避けるべき」という答えにはなりません。
最後に、この記事のまとめとして、あなたの状況別の結論をお伝えします。
| あなたの現在の状況 | 結論・目指すべき方向性 |
|---|---|
| 完全未経験で転職を目指している | SESを拒絶せず、最初の実績作りの場として選択肢に入れるのは大いにアリ |
| 未経験から独学やスクールで苦戦中 | いつまでも内定が出ない状態を続けるより、質の良いSESに入って実務経験を積む方が近道 |
| SESで1〜3年の経験があるが不満 | 市場価値は十分高まっている。自社開発、社内SE、受託開発へのステップアップ転職を検討しよう |
| 十分な実務経験があり高収入を目指したい | フリーランス独立や、高還元SES、自社開発企業のリーダー職など、自分に合ったキャリアを選べる段階 |
繰り返しますが、SESという働き方そのものが悪いわけではありません。
本当の問題は、「SESしか知らないまま、何年もスキルの伸びない環境に留まり続けてしまうこと」です。
IT業界で理想のキャリアを歩むための全体像は、こんなステップになります。
この流れを理解しておけば、最初にSESを選んだとしても必要以上に不安になることはありません。未経験から実務経験を積み、市場価値を高めていくための現実的なキャリアのひとつとして考えられるはずです。
「SESはやめとけ」というネットの極端な意見だけで判断するのではなく、自分がいま置かれている状況と、これから目指したいキャリアを照らし合わせながら選択することが大切です。
キャリアに正解はありません。ただ、実務経験を積み続け、市場価値を高められる環境を選び続けることは、どんな働き方を目指す場合でも大きな武器になります。























