エンジニア歴16年、スマホアプリ開発会社で主にバックエンドを担当していますが、好きなのはフロント側です。最近ではエンジニア採用の面接官や新人教育も担当しています。運営者ページはこちら
転職の面接には自信があっても、いざ年収の話になると急に歯切れが悪くなる。そんなエンジニアを、採用面接官としても何人も見てきました。
技術力には自信があるのに、なぜか給与の話になると「相手の言い値」を受け入れてしまう。理由を聞くと「角が立ちそうで」「贅沢を言っている気がして」という声がよく返ってきます。
ただ、給与交渉は決してわがままではありません。自分のスキルと市場での評価をすり合わせる、ごく実務的なプロセスです。この記事では、エンジニアが給与交渉で損をしないために知っておきたい準備・伝え方・相場観を、できるだけ網羅的にまとめました。
目次
なぜエンジニアは給与交渉で損をしやすいのか
エンジニアという職種は、本来もっとも交渉材料を揃えやすい立場にあります。担当したプロジェクト、使用した技術、改善した数値。成果を定量的に示しやすい職種だからです。
それでも交渉の場で弱気になってしまうのは、技術スキルと交渉スキルがまったく別のものだからだと感じています。設計やコーディングでは論理的に話せる人が、こと自分の待遇の話になると急に感覚的になってしまう。これは珍しい話ではなく、私が面接官として関わった候補者の多くにも共通していました。
厚生労働省の「令和6年賃金構造基本統計調査」によると、ソフトウェア作成者の平均年収はおよそ574万円とされています。ただ、これはあくまで全体の平均です。年齢や企業規模、職種によって幅は大きく、20代後半では平均483万円前後、30代前半では557万円前後というデータも出ています(きまって支給する現金給与額×12ヶ月+年間賞与その他特別給与額で算出)。つまり、同じ年代でも交渉次第で大きく差がつく余地があるということです。
さらに、経済産業省の調査では、2030年に最大79万人のIT人材が不足すると試算されています。人材の需給バランスが崩れているいまは、エンジニア側が交渉のカードを持ちやすい時期だともいえます。黙っていても給与が上がる時代ではありませんが、根拠を持って交渉すれば通りやすい環境にはなっているはずです。
給与交渉の基本|どのタイミングで、誰と交渉するのか
内定後・オファー面談が交渉の本番
給与交渉の中心になるのは、内定が出たあとのオファー面談です。企業側が「この人を採用したい」という意思を固めたあとなので、候補者側の交渉力がもっとも強くなるタイミングだといえます。
ここで注意したいのは、内定前に条件面の希望を伝えていない場合、内定後にいきなり高い金額を提示すると、企業側に「話が違う」という印象を与えかねない点です。希望条件はできるだけ早い段階で共有しておき、オファー面談ではその金額を最終確認・微調整する場として使うのが自然な流れです。
一次面接・最終面接での逆質問を使った布石
面接の逆質問の時間は、給与交渉の下準備としても使えます。「評価制度はどのような基準で運用されていますか」「同ポジションの方はどのくらいの経験年数で入社されていますか」といった質問は、給与の話を直接せずに相場観を探る手段になります。
ここでいきなり「年収はいくらですか」と聞いてしまうと、条件面ばかりを気にしている印象を与えてしまうことがあります。順番としては、まず自分の貢献イメージを伝えたうえで、条件面の確認は控えめに済ませるくらいがちょうどよいバランスです。
現職の引き止め交渉(カウンターオファー)とは分けて考える
退職を伝えた際に、現職から「給与を上げるから残ってほしい」と言われるケースがあります。これはいわゆるカウンターオファーで、転職先との年収交渉とは性質が異なります。
カウンターオファーは、あくまで退職の意思を撤回させるための一時的な提示であることが多く、根本的な評価制度やキャリアパスが変わるわけではないケースも見られます。転職を決めた理由が年収以外にもあった場合は、目先の金額だけで判断せず、当初の転職理由に立ち返って考えることをおすすめします。
交渉前にやるべき「相場観」の把握
自分の市場価値を知る方法
交渉の土台になるのは、自分の市場価値を客観的に把握することです。感覚だけで「もっともらえるはず」と考えても、企業側を説得する材料にはなりません。
具体的な方法としては、以下のようなものが挙げられます。
| 方法 | 特徴 |
|---|---|
| 転職エージェントへの相談 | 過去の成約データをもとに、実際の相場感を教えてもらえる |
| 年収診断ツール・査定サービス | スキルシートを入力するだけで、おおよそのレンジを確認できる |
| 公的統計データ | 厚生労働省や経済産業省の調査など、根拠として提示しやすい |
| 求人票の比較 | 同職種・同スキルの求人がどの年収レンジで募集されているか確認する |
これらを組み合わせて、自分の経験年数・スキルセットが「だいたいどのレンジに収まるのか」を先に把握しておくと、交渉時にぶれない基準を持てます。
言語・職種別の年収レンジ感
年収は職種によっても差が出ます。レバテックキャリアの案件データでは、フロントエンドエンジニアやサーバーサイドエンジニアの平均年収はおよそ400万〜500万円、PMOではやや高く500万〜600万円というレンジが示されています。ここにAI・クラウド・セキュリティなど専門性の高い領域が加わると、さらに上振れするケースも珍しくありません。
| 職種 | 平均年収 |
|---|---|
| フロントエンドエンジニア | 400〜500万円 |
| サーバーサイドエンジニア(開発) | 400〜500万円 |
| サーバエンジニア | 300〜400万円 |
| セキュリティエンジニア | 400〜500万円 |
| データベースエンジニア | 300〜400万円 |
| PM | 400〜500万円 |
| PMO | 500〜600万円 |
大切なのは、この数字を「自分の年収がいくらであるべきか」の絶対値として使うのではなく、交渉の出発点として使うことです。同じ経験年数でも、担当した工程の広さや技術領域によって評価は変わります。
現年収だけでなく経験年数×役割で考える
交渉のベースを「現年収からいくら上げたいか」だけで考えてしまうと、視野が狭くなりがちです。現職での評価が市場水準より低かった場合、現年収を基準にすること自体が不利に働くこともあります。
代わりに、経験年数と担当してきた役割(実装のみか、設計から関わっていたか、チームをまとめた経験があるかなど)を軸に、自分がどのレンジに位置するかを整理してみてください。現年収はあくまで参考情報の一つとして扱うくらいがちょうどよいはずです。
交渉を有利に進める具体的な準備
職務経歴書・スキルシートで成果を数値化する
給与交渉でもっとも説得力を持つのは、成果の数値化です。「頑張りました」ではなく「開発工数を3割削減しました」「障害対応の平均時間を半分に短縮しました」というように、定量的に語れる実績を職務経歴書の段階から準備しておくと、面接でもオファー面談でも使い回せます。
数値化が難しい業務であっても、担当範囲の広さや、チーム内での役割(新人教育を任されていた、要件定義から入っていたなど)を具体的に書き出すだけで、伝わり方は大きく変わります。
技術力だけでなく事業貢献をアピール材料にする
技術力の高さは前提として評価されますが、それだけでは他の候補者との差別化にはなりにくいというのが実情です。企業側が知りたいのは「その技術を使って、事業やチームにどう貢献できる人材か」という点です。
たとえば「担当したリファクタリングによって、リリースまでのリードタイムが短縮された」「新人教育を任され、チーム全体の生産性向上に寄与した」といったエピソードは、技術力と事業貢献の両方を伝えられる材料になります。
他社オファーがある場合・ない場合のスタンス
複数社から内定を得ている場合、交渉の材料としてかなり強い立場になります。「他社では〇〇円の提示をいただいていますが、御社への入社意欲が高いので調整いただけないか相談したい」という伝え方は、角を立てずに交渉できる型のひとつです。
他社オファーがない場合でも、交渉自体は可能です。ただしその場合は、他社比較ではなく、自分のスキルと市場相場をもとに根拠を組み立てる必要があります。相場データや過去の実績を丁寧に提示することが、他社オファーの代わりになります。
実際の伝え方|NGフレーズとOKフレーズ
根拠のない要求は通りにくい
面接官の立場から正直にお話しすると、「もう少し上がりませんか?」とだけ言われると、どう社内(査定部署)を説得すればいいか困ってしまいます。逆に、「〇〇の技術スタックと〇〇の実績を評価していただけるなら、前職+50万円を希望したい」と根拠を出されると、採用担当としても事業部長へ稟議を通しやすくなります。
希望年収はレンジで伝える
希望年収を一つの数字で伝えると、それが上限として扱われてしまうことがあります。「600万円〜650万円程度を希望しています」というように、ある程度の幅を持たせて伝えると、企業側にも調整の余地が生まれます。
先に具体的な数字を出すことにリスクを感じる場合は、「御社の給与レンジに応じて相談したい」と伝え、企業側から提示を引き出す進め方もあります。どちらが有利かはケースバイケースなので、自分の交渉材料の強さに応じて選んでみてください。
オファー面談での質問例
オファー面談で条件に納得がいかない場合、その場で即決や即答をする必要はありません。「大変魅力的なご提案をいただき、ありがとうございます。一点だけ確認させていただきたいのですが、給与のレンジについてもう少しご相談できる余地はありますか」というように、感謝を伝えたうえで確認する形にすると、印象を悪くせずに交渉を進められます。
自分で交渉する場合とエージェント経由で交渉する場合
自分で交渉するメリット・デメリット
自分で直接交渉する場合、企業側との温度感をリアルタイムで感じ取れる点はメリットです。ただ、給与という繊細な話題を本人同士でやり取りすることには、心理的なハードルもあります。強く言いすぎれば印象を損ねるかもしれない、遠慮しすぎれば損をするかもしれない。このバランスを一人で判断するのは、想像以上に負担が大きい作業です。
エージェント経由で交渉するメリット・デメリット
転職エージェントを介した交渉では、キャリアアドバイザーが企業と候補者の間に立ち、条件面のやり取りを代行してくれます。本人が直接言いにくい金額の話も、第三者を通すことで伝えやすくなるのが大きな利点です。
また、エージェントは過去の成約実績や企業ごとの給与レンジをある程度把握しているため、「この経験年数・スキルであれば、この金額までは交渉の余地がある」といった相場観を踏まえたアドバイスを受けられます。デメリットとしては、エージェントとの相性によってサポートの質に差が出る点は理解しておく必要があります。
言いにくいことはプロに任せるという選択肢
給与交渉が苦手な理由の多くは、スキル不足ではなく「言い出しにくさ」にあります。金額の話は、どれだけ論理的に準備していても、対面で切り出す段になると躊躇してしまうものです。
こうした場面では、給与交渉を得意とするエージェントに間に入ってもらうのも現実的な選択肢です。たとえばテックゴーは、ハイクラスエンジニア向けの転職エージェントで、独自ルートによる高年収求人を多く保有しているほか、給与交渉のサポートに力を入れている点が特徴です。専門性の高いアドバイザーが企業側の評価基準を踏まえて条件調整を行ってくれるため、自分一人で交渉するよりも納得感のある結果につながりやすくなります。
「本当はもっと評価されてもいいはずなのに、言い出せずに妥協してしまった」という状況を避けたい方は、一度こうしたエージェントに相談してみるのも一つの手です。
給与交渉でよくある失敗パターン
相場を知らずに低い金額で妥協してしまう
準備不足のまま面談に臨むと、企業側の提示額をそのまま受け入れてしまいがちです。企業側も予算の都合上、最初から上限を提示してくるとは限りません。相場を把握していないと、交渉できる余地があったことにすら気づけないまま話が終わってしまいます。
強気に出すぎて内定取り消しリスクを負う
反対に、根拠のないまま強気な金額を要求すると、企業側から「予算感が合わない」と判断され、内定を取り消されるケースもゼロではありません。交渉は、企業側の予算や評価基準を無視して進められるものではなく、あくまで擦り合わせの作業だと捉えておく方が安全です。
交渉ばかりに気を取られ、働く環境や裁量を軽視する
年収の話に集中しすぎるあまり、業務内容や裁量、働き方といった条件の確認がおろそかになるケースも見られます。年収が上がっても、期待される役割と自分のスキルに大きなギャップがあれば、早期のミスマッチにつながりかねません。給与は数ある条件の一つとして、全体のバランスの中で判断することをおすすめします。
ケース別Q&A
20代・実務経験が浅い場合の交渉スタンス
実務経験が浅い段階では、交渉の材料になる実績がまだ少ないのが正直なところです。この場合は、金額そのものよりも「今後どのくらいのペースで昇給が見込めるか」といった評価制度の確認に重点を置く方が現実的です。目先の年収差よりも、成長環境と評価スピードを優先して選ぶ方が、数年後の年収に大きく影響します。
30代・マネジメント経験ありの場合の交渉スタンス
マネジメント経験がある場合は、技術力に加えてチーム運営の実績も交渉材料になります。メンバーの育成、進行管理、他部署との調整経験など、数字にしにくい貢献も具体的なエピソードとして言語化しておくと、交渉時の説得力が増します。
SES・受託から自社開発企業への転職時の交渉スタンス
SESや受託開発の場合、案件単価と個人の給与が直接連動していないケースが多く、実際のスキルが給与に反映されていないことがあります。転職時には、これまで携わった案件の技術的な難易度や担当範囲を丁寧に棚卸しし、案件単価ではなく自分のスキル基準で相場を確認することが大切です。
未経験転職の場合、交渉の余地はあるか
未経験からの転職では、交渉の余地は限定的です。企業側も育成前提で採用しているため、入社時点での年収交渉よりも、入社後の昇給条件や評価タイミングを確認しておく方が実務的です。将来的な交渉材料を作るという意味では、入社後にどのスキルを優先して身につけるかを早い段階で意識しておくとよいはずです。
まとめ|給与交渉は準備と伝え方で結果が変わる
給与交渉は、特別なテクニックが必要な作業ではありません。市場相場を把握し、自分の実績を根拠として整理し、それを角の立たない形で伝える。この3つが揃っていれば、多くの場面で交渉の余地は生まれます。
ただ、準備ができていても「言い出しにくさ」だけはどうしても残るものです。そこは無理に一人で抱え込まず、給与交渉に強みを持つエージェントに頼ってしまって問題ありません。テックゴーのように、給与交渉のサポートや面接対策に力を入れているエージェントであれば、自分では気づけなかった交渉材料を引き出してもらえることもあります。
今の年収に少しでも違和感があるなら、まずは自分の市場価値を確認するところから始めてみてください。



















